AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
細野晴臣本人に「もうこれ以上、話すことはないです。」と言わせた評伝『細野晴臣と彼らの時代』。松本隆や坂本龍一など、多数の音楽家と関係者による証言、膨大な資料の分析を通じて、日本のポップミュージックと時代を浮き彫りにした一冊だ。著者の門間雄介さんに、同著に込めた思いを聞いた。
* * *
細野晴臣さんは言わずと知れた日本のロック&ポップス界の立役者。研究書も多数発行されているが、門間雄介さん(46)の評伝『細野晴臣と彼らの時代』はひと味違う。
細野さんの足跡をたどりながら、人生に深く影響し、ときに離れ、有機的に関係する音楽家たちの生き様が巧みな筆致で描かれている。しかも登場する人々の多くは、日本を代表するアーティストだ。
「膨大な資料を検討する間に細野さんの個人史を描くことは、日本の音楽史を扱うことにもなると気づき、執筆のプレッシャーが増しました」
企画が立ったのは8年前。書きたい思いがつのり、細野さんに直談判した。学生時代から「はっぴいえんど」のファンで、音楽雑誌の編集者時代にはエッセンスを受け継ぐ若手アーティストを積極的に紹介していたからだ。
本は細野さんのソロアルバムに刺激されて音楽を始め、のちに細野さんから「未来をよろしく」と託された星野源さんのエピソードから始まる。
「細野さんは今も素敵な音楽を発表し、演奏し続けています。だから過去を美化したり、懐古したりする閉じた本にしたくなかった。細野さんをよく知らない方や若い世代が読んでも創造性を刺激される内容にしたかったんです」
盟友である大瀧詠一さんとの出会いや交わされた会話、「YMO」のメンバーである坂本龍一さんと細野さんが幼少期、すぐそばに住んでいたこと、バンド結成やレコーディングなど、エピソードの描写はかなり細かい。