![延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/7/0/840mw/img_703583efdaa03ec667ee2c00f7ed3ab758954.jpg)
![小林麻美の魅力を引き出したPARCOのCM(『小林麻美 第二幕』から)](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/4/b/611mw/img_4b5ded2ef1073efeb3042e1423b7b19256088.jpg)
TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、「石岡瑛子」について。
【写真を見る】小林麻美さんの魅力を引き出したPARCOのCM
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クリエイティブ・ディレクターの杉山恒太郎さんと小林麻美さんの話をしていた時、真っ先に出てきたのが、PARCOのCM『淫靡(いんび)と退廃』だった。コピーは「人生は短いのです。夜は長くなりました。」(1976年)。
後日小林麻美さんに秘話を聞いた。彼女を起用したのは石岡瑛子である。
「沼津港でクルーザーが私を待っていたんです。夜でしたが、照明が煌々(こうこう)としていてスタンバイは完璧でした。石岡さんが用意していたのは、目の覚めるような三宅一生の真っ赤なイブニングドレス。ニューヨークから帰国したばかりのヘアメイク野村真一さんは、私の髪のリボンをはぎ取り、ひっつめにして、これがいいわって鏡越しに私を見た」「超一流と仕事をすることは『魔術』にかかることだと知りました。力が集結している場所に自分はいる」(延江浩 『小林麻美 第二幕』朝日新聞出版)。
石岡は船上でジャン・ルノワールの『ピクニック』のサントラを流し、麻美さんはそれに合わせタキシードの男性に抱かれてゆったり踊った。石岡の印象を尋ねると、「オーラがありすぎて、なんだかわからなかった」
僕もそのオーラを味わいたくて、ダブル開催されていた石岡瑛子展(ギンザ・グラフィック・ギャラリー企画展「グラフィックデザインはサバイブできるか」、東京都現代美術館「血が、汗が、涙がデザインできるか」)に足を運んだ。両会場とも、石岡のプリミティブで低く、しかしビロードのように柔らかな声が流れていた。
石岡はこの声で世界と渡り合ったのだ。
「(創造物の)着地は熱情でなければならない」
彼女の声をBGMに、資生堂社員として手掛けたグラフィックから北京五輪開会式の張芸謀(チャンイーモウ)とのコラボレーション、殺人犯の脳内世界で現実と昏睡を行き来する映画『ザ・セル』やシルク・ドゥ・ソレイユ、コッポラの『ドラキュラ』の衣装デザイン、マイルス・デイヴィス『TUTU』アルバムジャケット、繭(コクーン)をテーマにしたビョークのMVと、一つとして見逃せない重要な作品を追いかけた。