『タイムズ』SGルイス(Album Review)
『タイムズ』SGルイス(Album Review)
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 本名サミュエル・ジョージ・ルイス、1994年生まれの26歳(2021年現在)。イギリス南部のレディングで生まれ、学生時代から音楽活動をスタートさせ、曲作りやDJとしてクラブでプレイしてきたという。2014年にPMRレコーズと契約し、同レーベルの代表格ディスクロージャーのオープニング・アクトや、ジェシー・ウェアの「You & I (Forever)」をリミックスしたりと注目を集めたタイミングで、翌2015年にデビューEP『Shivers』をリリースした。その後、コラボレーション含む30曲近いシングルと5作のEPを発表してきたが、正式なスタジオ・アルバムとしては本作『タイムズ』がデビュー作となる。

 サウンドの中心は、昨今ブームを起こしている80年代ディスコや初期のシンセ、ハウス・トラック。自身が楽曲を提供したデュア・リパの『フューチャー・ノスタルジア』や、ザ・ウィークエンドの『アフター・アワーズ』、英国で大ヒットしたカイリー・ミノーグの『ディスコ』などにも通ずるものがあり、ブームに乗ったという捉え方もできなくはないが、SGルイスはデビュー当時から自身のスタイルを崩してはいない。むしろ時代が追いついたという感じか?

 また、ミュージシャンを志すキッカケにもなったザ・ネプチューンズのファレル・ウイリアムスや、前述のディスクロージャーに影響を受けたとみられる節もあり、これまでのキャリアを総括した集大成的な内容ともいえる。バンダナを取り入れたポップなファッションに、薄ぼけたネオンのジャケ写からもディスコ世代を彷彿。近年レコードの需要が急激に伸びているので、そういった意味でも“流行を取り入れた”といえる、ような。

 冒頭の「Time」からして、まんま80年代。バックに従えたストリングスからサルソウルっぽくも聴こえる古典的なハウスで、ジャンルは異なるが故デニス・エドワーズの80'sファンク・クラシック「Don't Look Any Further」(1984年)がサンプリング・ソースとして使われている。ゲストには、マイケル・ミロシュによる音楽プロジェクト=ライが参加。ダウン・テンポのグルーヴを得意とする彼(等)の作品とは、良い意味で一線を画す。

 2曲目の「Feed The Fire」は、デュア・リパの「Hallucinate」を制作中に同じタイミングで書いた曲だそうで、テンポや音色がリンクするフロア・ライクな仕上がりとなった。ボーカルを担当したのは、米ニューオリンズ出身のR&Bシンガー=ラッキー・デイ。張り上げず心地よいトーンで歌い上げるボーカルが、邪魔にならないようトラックの良さを際立てている。曲を繋ぐよう間髪入れずに次曲「Back To Earth」へ。この曲も同調のディープ・ハウスで、ボーカルはわずかなコーラスのみだがトラックに浸るには十分。

 次の「One More」は、自身が所属するシックの「おしゃれフリーク」(1978年)や、ダイアナ・ロスの「アップサイド・ダウン」(1980年)、マドンナの「ライク・ア・バージン」(1984年)など、ディスコの代表曲を生み出してきたレジェンド=ナイル・ロジャースとの共演。これらの楽曲に大きな影響を受けたであろうSGルイスにとっては、信じられない“夢の実現”といえるのでは?かつてのディスコ・ヒットとはタイプの違う現代版ハウス/テクノだが、お得意のギター・プレイがフックで光る。

 4曲フロア・チューンが続き、次の「Heartbreak on the Dancefloor」でひと呼吸。テンポ・ダウンしたサウンド・プロダクションは、80年代だとS.O.Sバンド、ここ最近ではザ・チェインスモーカーズ路線の哀愁メロウに近い。甘い旋律に合うシルキーなボーカルは、「Warm」(2015年)や「Coming Up」(2018年)など、過去のシングル曲にも携わってきた英オックスフォード出身の女性シンガー・ソングライター=フランセスによるもの。ゲストの選出もすばらしい。

 ドリーミーな“語り”のインタールード「Rosner's Interlude」を挟み、次曲「Chemicals」で再びフロアへ。ディスコというコンセプトでいえば本作中最も則った曲で、ベースラインはダフト・パンクの「ゲット・ラッキー」(2013年)をそのまま引用したような感じだ。無論、彼等の音楽に影響を受け、リスペクトしているからだろうが。ゲストとしてではないが、ソングライターにはドイツを拠点とするマリウス・ラウバーによるプロジェクト=ルーズベルトがクレジットされている。

 8曲目の「Impact」は、米LAを拠点とするDJ/プロデューサーのチャンネル・トレスと、スウェーデンの女性シンガー、ロビンの2人をゲストに招いた煌びやかなダンス・ポップ。ラップに近い低音のヴァースと、粘りっこい高音のサビが対比効果を生み出す。ダンスが途切れないよう次の 「All We Have」へ。この曲はオーストラリア出身の兄妹デュオ=ラストリングスをゲストに招いた7分弱の長編で、山場みたいな展開はないが、メロディック&アーバンなトラックがフロアでかけるに好ましく、クラブでの“まったり感”を再現したような印象を受ける。昨年11月にリリースしたラストリングスのデビュー・アルバム『First Contact』にも近いテイスト。

 最後までダンス・トラックが続いてもそれはそれで良かったが、最終曲「Fall」は失われた愛について歌ったメランコリックなエレクトロ・バラードで締め括る。約40分とコンパクトな内容ではあるが、一晩中フロアを堪能したような充実感があり、“そういった遊び”ができないこのご時世においても是非オススメしたい一枚。『タイムズ』というタイトル/テーマも、昨年のパンデミックを受けて感じた想いが込められているのではないだろうか。

Text: 本家 一成