夜行さんがこよみを保護したのは9年前だ。300gほどの手乗りサイズの子猫だった。
「無事に育ってくれるか、毎日心配でした」(夜行さん)
猫と暮らすのは初めてだったが、人懐こくて愛くるしいこよみに魅了された。いろいろな世界を見せてあげたくて、ペット用のカートを用意し、休みのたびに一緒に出かけた。1年後には1歳年下のゆきを保護した。
■生きることは修行
2匹との暮らしは幸せいっぱいだったが、一方で、地元・徳島に対する問題意識も感じていた。若者は大都市に行き、高齢化が進んでいる。行政も地方創生に尽力しているが、自分たちにもできることがあるはずだ。
「町おこしを、一緒にできないか考えたんです」
当時、趣味でコスプレをしていた。イベントに小さなマントをつけたこよみを連れていくと、あっという間に人気者になった。猫が嫌がらず楽に動ける衣装にするコツもわかった。そこで、こよみとゆきを連れて県内の名所をまわることにし、お遍路が始まったのだ。
お遍路を通じて、夜行さんは思いも深めた。
「生きていることが修行で、生きている間は旅が続きます。ゆきとこよみは僕の大切な家族です。生まれ変わっても一緒に生きられるように、願いを込めてまわっていました」
夜行さんとこよみとゆきも、コロナの収束を願っている。
「多くの人に、こよみとゆきを見てもらって、自由に写真を撮ってもらいたい。一緒に、徳島を元気にしたいと思っています」
(編集部・熊澤志保)
※AERA 2021年3月15日号