海外での日本料理ブームが止まらない。食に関心の高いフランスはもとより、アメリカでも料理教室が開かれるほどの人気だ。
ニューヨークやロンドンで「回転寿司」の看板を見て驚いたのは1990年代のこと。今や、日本の「おふくろの味」や「くずし割烹」を売りにする、予約困難な店がパリに登場、ラーメンや和定食も手軽なランチとして人気がある。
昨年末にはジョエル・ロブション氏の著書『おべんとうの本』が刊行された。弁当箱の中に美しく料理を詰めるデザインの妙と、外食よりも安く、健康的だという点で若い世代を中心にフランスでは「bento」に注目が集まっている。
近茶(きんさ)流嗣家(しか)の柳原尚之氏の教室では、本格的な日本料理や茶懐石を学ぶことができる。しかし「懐石」というと難易度が高いのではないだろうか。
「会席料理は料亭で出される、お酒をいただくための料理。一方、懐石料理の始まりは、お茶事の時に亭主がお客様をもてなすために作った茶懐石。洗練された料理のかたちですが、亭主が一人で客のために作っていた懐石は、特別な料理ではなく、究極の家庭料理なのです。難しい技術ではなく、調理や出すタイミングに気をつける。ほうれん草をきちんと茹でて、すぐに和えることで、十分に満足する味になります。料理は手をかけすぎてもよくありません。その人の体調をみて味を調節するとか、家庭だからこそできる慈愛のある料理ができるのでは」(柳原氏)
1965年に梅干しに出会った驚きから、日本料理にのめりこんだのがアメリカ出身の安藤エリザベス氏だ。柳原料理教室で学び、自身も外国人向けの料理教室を海外でも開いてきたほか、日本料理の文化的な背景とレシピを紹介したクックブックをアメリカで出版している。
「人気があるのは味噌の食べ比べや、海藻や昆布などの乾物の種類や使い方を教えるクラスです。それから魚、とくに青魚や光りものなど、海外ではあまり食べなれていない魚を料理するクラスも要望があります。味噌の好みはお国柄があって興味深いです」
安藤さんの書名は『KIBO』(希望)、『WASHOKU』(和食)など日本語だ。
「『KANSHA』(感謝)の時には、食べ物は命、その恵みをいただくという気持ちをこめて、タイトルをつけました。普通の野菜でも丁寧に料理すれば無駄はありません。日本料理を味わうためには、ストーリー性が重要。そのことを柳原敏雄先生に教わりました。ただの料理法だけではない、文化的な背景も日本料理の魅力だと思います」(安藤氏)
※AERA 2013年5月6日・13日号