新型コロナウイルスは感染しても症状の出ない人が3割以上いるとみられ、特に若い世代では無症状が多いと考えられているが、症状の無い人でも糞便にウイルスが排出されるので、下水調査なら、無症状の感染者も検知できる可能性がある。

 シンガポール大では、寮ごとに下水を自動で採取する装置を付け、1日80検体まで検査する能力を備えているという。

 ただし、今回のように、すでに回復した人からもわずかなウイルスが糞便に排出され続けることがあり、下水調査でそれを検知することもある。このため、本当に感染者がいるかどうかは、個人を対象にしたPCR検査や抗原検査と組み合わせて確定する必要がある。

 下水調査でクラスターの発生を防ぐことに成功したのは、米アリゾナ大学だ。

■感染者を早期に隔離

 昨年8月、キャンパスで授業が再開されるにあたり、各地からキャンパス内の寮に学生たちが戻ってきた。寮に住む学生は全員、事前に抗原検査を受け、陰性だった場合だけ寮に入ることが許された。

 その上で、新たな感染をいち早く見つけることが可能かどうかを確認する目的で、キャンパス内にある13カ所の寮のうちの1カ所で試験的に、学生たちが入寮し始めた8月17日から毎日、下水調査が行われた。授業再開の翌25日、下水から新型コロナのRNAが検出された。

 このため、26~28日にかけて寮の住人311人に対しPCR検査や抗原検査が行われた。症状の出始めた感染者1人だけでなく、症状のない感染者も2人見つかった。3人が隔離場所に移ったため、寮内ではそれ以上、感染が拡大しなかった。

 下水調査の効果を確認したアリゾナ大では8月下旬から11月20日までの秋学期中、13の寮の下水を週2回ずつ調査した。新型コロナウイルスのRNAが検出された「陽性」の場合には、抗原検査などで感染した寮生がいないか確認した。

 その結果、下水調査で陽性で、実際に感染者が見つかったのは99回の検査中79回(約80%)、下水調査の結果が陰性でその後、感染者が出なかったのは220回中195回(約89%)だった。

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