コロナ禍をきっかけに都市近郊に住み替える人が増えている。テレワークの普及で通勤ラッシュにもまれなくてもよいなら、都心にこだわらなくていい。郊外で仕事も趣味も満喫。「都落ち」なんていわせない、AERA 2021年5月31日号は「プチ移住」の実態に迫った。
【トップ30の続き】東京23区からの移住が増えた近郊自治体はここだ!
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都内の芸能事務所に勤める小川大輔さん(35)と山旅専門添乗員の知香さん(33)は4月、世田谷区成城のアパートから神奈川県秦野市の一戸建てに移った。2階のテラスで太陽を浴びながら朝ご飯。週末はバーベキューが定番だ。雄大な丹沢山を眺めながら、2人でグラスを傾ける。
「私たちだけの景色が見られるなんて最高です。一時的に住むつもりでしたが、ずっと秦野でいいかな」(知香さん)
2人が東京脱出を決めたのは、やはりコロナ禍だった。大輔さんも、海外旅行の添乗がメインだった知香さんも、仕事が大幅に減り、会社や空港に近い東京に住むこだわりを捨てた。
「小田急線の沿線で、内見した別の物件はすぐに埋まっていきました。この家は情報が出た初日に行ったけど、見学したのはすでに3人目。その場で契約しました」(大輔さん)
家の広さは2倍以上、家賃は半額ほど。築50年以上の味わいのある物件だ。都心からは急行で1時間ほど遠ざかる。最初は生活環境が変わることへの不安が大きかったという。だが、
「不便になるかと心配でした。それが都心にいたころより、便利になっちゃって」
大輔さんは笑う。成城は大物芸能人も住む高級住宅街。住み始めた当初は「世田谷区民になれた」とテンションが上がったが、盲点があった。アパートの周囲は閑静だったが、駅からはやや遠く、スーパーや飲食店まで歩いて20分以上かかった。さらに、物価が高めで、野菜も手が出しにくい。とにかく、ライフスタイルにあっていなかった。
■都会を捨てて趣味充実
いまの住まいは秦野駅から車で5分。自転車で2分のイオンで、生活に必要なものは全てそろう。知香さんは言う。
「野菜が100円で買えるし、夕方は肉が半額になる。これまで鶏肉ばかりだったのが、牛肉にも手を出せるようになって」