TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。「村上RADIO特別版~戦争をやめさせるための音楽~」について。
【写真】瓦礫に残された村上春樹の『東京奇譚集』ロシア語翻訳がこちら
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「音楽に戦争をやめさせるだけの力があるのか?」。今年3月18日の夜11時、村上春樹さんはラジオでこう語りかけた。
「残念ながら音楽にはそういう力はないと思います。でも聴く人に『戦争をやめさせなくちゃならない』という気持ちを起こさせる力はあります」
村上文学の読者はウクライナにもいる。ロシアの無差別攻撃で犠牲者が増え続けていた。一刻も早くと特別枠、コマーシャル抜きでの放送になった。
番組終了後、村上DJのトークの英訳を番組サイトに掲載して海外に発信した。AP通信は、“Murakami plays antiwar songs on radio to protest Ukraine war”と報じた。
村上さんは「年寄りが勝手に始めた戦争で若い人たちが命を落としていく。本当に悲しむべきことです」とマイクに向かった。
安全を求めてウクライナ国境から避難した人は1500万人超。声と音楽でリスナーと対話するラジオは何百万、何千万のひとくくりの数字ではなく、一人一人の生活に思いを馳(は)せる。その夜、番組に合わせ一体何人が平和の歌を口ずさんだことだろう。
この番組「村上RADIO特別版~戦争をやめさせるための音楽~」が、本年度の日本民間放送連盟賞ラジオ・準グランプリを受賞した。
「取りあげた曲の歌詞と制作された当時の時代背景を村上春樹が丁寧に説明することで、若い世代のリスナーにも、何度も繰りかえされてきた戦争の愚かさが伝わる。音楽によって静かな怒りを表現し、リスナーの心を揺さぶる」との講評に村上さんはこう応えた。