『満洲国グランドホテル』
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 第26回司馬遼太郎賞が11月30日、平山周吉さん(70)の『満洲国グランドホテル』(芸術新聞社刊)に決まった。

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 受賞作は昭和初期に建国された満洲国を舞台に行き交った文芸評論家、小林秀雄ら36人の日本人群像を描いたノンフィクション。平山さんは元文藝春秋編集者で定年後、文筆業に。2019年に『江藤淳は甦える』で小林秀雄賞を受賞している。

 平山周吉といえば小津安二郎の名作「東京物語」で笠智衆が演じた主人公の名だ。平山さんは記者会見で「急にペンネームをつけることになって、その名前しか思いつかなかった。後日、小津映画のプロデューサーに許可をいただきました」と律義に語っている。

 長く席を置いた出版界では資料蒐集家として有名だったそうで、「職場ではやたら本を集めては机の上に積み上げて迷惑がられていました。隙があれば本を置いて他人の『領土』を侵食していた(笑)。退職後にその本を読むだけでなく形にしたいと思うようになりました」「満洲国は日本近代史最大のつまずきですが、構図が壮大で昭和史には欠かせないテーマ。観察すると野心家、脇が甘い人、変な人というか面白い人たちが多い。一人一人の人間にフォーカスを合わせて36人を形にした。書こうと思ってやめた人もいた。結局は好きな人を選びました」。

 縁と言えるかもしれない。文藝春秋で編集を担当した伊藤之雄著『昭和天皇伝』が11年前に司馬遼太郎賞を受賞している。

「その時は自分が賞をいただくことになるとは思ってもいなかった。司馬さんは大きな存在。司馬さんの大きな仕事を引き継いでいかなければ」

 平山さんの肩書は雑文家。独特の美意識があるようだ。「昭和史はさまざまな形で書かれていますが、まだやりようによって違う見方ができると思っています。来年は小津安二郎の生誕120年。昭和史の中で小津映画の存在は大きい。連載したものをまとめて本にする予定です」

 司馬遼太郎フェローシップは平田京妃(みやび)さん。贈賞式は来年2月12日、「菜の花忌シンポジウム」(東大阪市文化創造館)で行われる。(山本朋史)

週刊朝日  2022年12月16日号