この記事の写真をすべて見る

 文芸評論家・大矢博子さんが評する『今週の一冊』。今回は『吉原と外』(中島要、祥伝社 1760円・税込み)です。

*  *  *

 中島要のデビュー2作目、2011年の『ひやかし』は出色の出来だった。吉原の遊女を描いた短編集で、泥の中で咲く蓮の花のような遊女たちの誇りと、けれどそれを決してきれいごとにはしない造形が圧巻だったのに加え、流れるような台詞使いに一気に魅せられたものだ。

 以降、さまざまなジャンルの時代小説を手がけてその引き出しの多さを見せつけてきた中島が、久しぶりに遊女ものを手がけたと聞いては放っておけない。

 ただし今回の舞台は吉原ではない。18歳の若さで身請けされた元花魁(おいらん)・美晴と、彼女の妾宅で働く23歳のお照の物語である。

 呉服屋の主人・砧屋喜三郎が吉原の花魁・美晴を身請けした。喜三郎は婿養子で妻のお涼に頭が上がらないため、通い番頭の卯平と相談し、吉原に通い詰めるよりは安いからと、妻には内緒で美晴を囲うことにしたのだ。

 そして卯平は義理の娘であるお照に、美晴の世話をするよう命じる。だがそれは表向き。実際は美晴が他の男を連れ込んだらすぐに知らせろという、いわば監視係として送り込まれたのだった。

 23歳にして独り者のお照は、吉原あがりの美晴がどうしても好きになれない。しかしともに暮らすうちに、いつの間にかふたりの間には絆が生まれ……。

 全6話が連作の形で収録されており、各編にちょっとしたミステリの趣向があるのが楽しい。

 第1話ではお照が前の奉公先で体験したゴタゴタを、美晴がある策を弄して解決する。第2話では板塀の修理に来た大工が美晴に執着して悶着が起きるが、その陰にあった事実を美晴が見抜く。

 各話の顛末は実に爽快で、人情ものとしてとてもレベルが高い。そうして美晴の意外な一面を知ったお照が次第に彼女を見直すようになるのだが、各話で綴られる事件がいずれも家族の物語であることがポイント。

次のページ