ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「AKB48の岡田奈々さん」について。
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AKB48の岡田奈々さんがグループを卒業するとか。AKB48と言えば、2000年代後半から日本のアイドル界を席巻した国民的認知度を誇るグループです。チームごとでの公演、大規模な握手会、新加入や卒業による激しい代謝、フロントメンバーをファン(CD購入者)投票で順位づけし決定するなど、時には一般世間をも巻き込んで成長を続けてきました。
2022年11月現在、研究生を含め総勢82名の女の子たちが所属しているとのこと。この東京・秋葉原を本拠地とするAKB48(通称・本店)を軸に、今や名古屋・大阪・博多・新潟・瀬戸内・ジャカルタ・バンコク・マニラ・上海・台北・チェンマイにそれぞれ「支店」を展開し、さらには乃木坂46・櫻坂46・日向坂46らの「坂道シリーズ」なるグループも合わせると、実に666人もの大所帯だそうです。17年に及ぶ歴史を鑑みても、優に1500人近くのアジア女子たちがAKBの屋号の下に籍を置いていたことになるでしょう。
私がもっともAKBと仕事をしたのは10年ぐらい前です。毎年行われていた「AKB総選挙」が社会現象化し、グループの顔となる主要人気メンバーが固まりつつあった頃。大島優子・前田敦子・高橋みなみ・篠田麻里子・板野友美・小嶋陽菜・柏木由紀・渡辺麻友・指原莉乃・峯岸みなみといった、まさに最初の「AKB黄金時代」を築いた各人たちと、毎週毎日のように様々な現場でいろいろな仕事をしました。他にも、宮澤佐江、秋元才加、梅田彩佳、島田晴香、田野優花、NMB(大阪)の山本彩や乃木坂の生駒里奈など、印象に残っている人たちはたくさんいます。
やがて時代は移り、最盛期メンバーがほぼいなくなってからのAKBを牽引したひとりが岡田奈々さんです。彼女の「華」は、その凛とした可愛らしさはもちろんですが、それ以上にどこか怒りにも似た意気地を漂わせながら、粛々と労働に向き合う姿にあります。それは久しく足りていなかった「アイドルならではの焦燥感」に溢れており、とても不器用で魅力的です。一方で、私はずっと彼女のことが心配でもありました。どんなにその責務を真摯に貫き続けても、この商売はそこまで磐石ではないからです。