ホイットニー美術館で大規模な回顧展を開いたのが101歳。ハバナで建築、NYで絵を学ぶが、「あなたは女性だから個展を開くつもりはない」と画廊の女性に告げられ、「平手打ちされた気持ちでその場を去った」との記憶は痛切だった。
「誰も私が画家だとは知らなかった」
コロナのパンデミックで世界では既成の価値や常識がリセットされつつある。コロナ禍を突発的な疫病というだけでなく、「グローバル化」や「SNSの普及」「ポピュリズムの台頭」などと同様に世界を変える要素ととらえているのが村上春樹さんだ。「村上RADIO」に関するインタビューで「それらの要素が一緒に来て絡み合っていた、という気がする。僕が一番心配なのはこの状況で若い人がどう感じ、どんなふうに変化していくのかということ。良くも悪くもなる可能性がある。少しでもポジティブなものを作って提供していくのが小説家やラジオなどの役目、責務だと感じる」と語っている(日本経済新聞6月29日)。
「少しでもポジティブなものを提供していく」役割はアートにも通じる。
展覧会タイトルに「アナザーエナジー」とあるが、僕は今回の展覧会でジェンダー問題から社会の不具合を正そうというアーティストのほとばしる「エナジー」を感じた。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2021年8月6日号