高校1年生の9月に、大事件が起こる。名古屋大学の坂田昌一教授が素粒子のクォークモデルの前身となる「坂田モデル」を発表した。自分の町で起きた大発見に興奮して「ぜひ見学させてもらいたい。名古屋大に行きたい」と奮い立った。

 父は「家業を継げ」と圧力をかけてきたけれど継ぎたくなくて、食事時はけんか。母親が間に入ってくれて一度だけ受験を許してくれた。さて、どうやって受かるかと考えた時に、英語を捨てて他で90%近く取ればいいじゃないか、と。物理や数学の勉強は面白いから、自分にとっては遊びみたいなもの。予想通りの点は取りました。作戦勝ちだね。試験問題も記述式が多かったのが自分に合っていた。

 英語? さすがに記述問題はちょっと書いた(笑)。ただ、大学に入ってからもドイツ語の試験は全部白紙。大学受験は総合点だからよかったけど、大学院に上がる時はさすがに「こんな学生を通していいのか」と議論があったらしい。擁護してくれた先生がいて助かった。

 高校のころから人と議論をするのも好きだった。ディベートの授業で一度、本音とは違う意見で議論させられて負けたことがあって。絶対に勝てる方法を研究してからは、議論すれば必ず勝ったよ。相手を言い負かした後に「君のほうが正しかったんだけど、ここの主張を間違ったんだよ」と種明かしする。相手は怒ったねぇ(笑)。

【益川先生に聞きました!】
Q1 よく読んだ本は?
A1 少年時代から大の本好きで、特に好きだったのは芥川龍之介。「著作の98%は読んだよ。『芥川論』を書けるほどだね(笑)」

Q2 どんな場所で勉強しましたか?
A2 小学校時代はほとんど勉強はせず、まじめに勉強を始めたのは高校から。苦手な英語や国語の授業中に「内職」し、他の教科を勉強していた。

Q3 好きな教科・苦手な教科は?
A3 数学や理科は勉強しなくてもできたが、英語や国語が大の苦手。

Q4 大学受験はどうでした?
A4 苦手な英語を捨て、他の教科に集中。いとこが持っていた問題集を片っ端から解いていた。

Q5 勉強以外で夢中になったことは?
A5 少年時代はひたすら外で遊んでいた。高校時代から古本屋めぐりを始め、数学の専門書などを買いあさった。

(構成 編集部・市岡ひかり

※AERA 2017年10月16日号