見所といえば、地球を模したドローンの集合体が「宇宙」に浮かぶ場面だったが、いったいどのくらいお金がかかったのか想像に難くない。シンプルイズザベストという招致当初の謳い文句はいったいどこへ消えてなくなったのか。
徒労という言葉だけが残ってしまった。
最後に聖火が灯される。最大のイベントのはずだが、どこに設置されたのかと思った聖火台は、会場内にある富士山らしきものの頂上にあった。そこに辿りつくまでも多くの人を動員してまだるっこしい。最後の大坂なおみさんに到着した時は正直ほっとした。
しかしその聖火も、期間中はお台場近くに移動する。それもわかりにくい。
富士山の頂上に点火された時は感動というより恐怖に襲われた。一瞬富士が爆発したように見えたのだ。
ともかく様々な要因がからんで気が滅入ってしまった。
開会式というよりは、閉会式と呼びたい式典だった。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『明日死んでもいいための44のレッスン』ほか多数
※週刊朝日 2021年8月13日号