WHOが感染経路に関する見解を修正した背景の一つは、コールセンターや食肉加工工場での集団感染など、空気感染でなければ説明できない感染事例が多数、報告されていることだ。加えて、微小な粒子の空気中の動きや大きさなどを分析する最新技術を使ったさまざまな研究による知見が蓄積されてきた。
米科学誌「サイエンス」電子版に8月27日公表された台湾や米国などの研究チームによる総説(解説)は、200本以上の論文を基に、新型コロナウイルスを中心に呼吸器感染症の空気感染についての最新の知見を紹介している。空気感染が当初の想定よりも新型コロナウイルスの感染拡大に寄与していると考えられる理由をこう説明する。
「換気の悪い屋内で感染が起きやすく屋外では起きにくいという疫学データは、空気感染でしか説明できない。飛沫感染や接触感染の起こりやすさは、換気の良し悪し、屋内や屋外という違いに影響されないからだ」
従来は、エアロゾルは直径5マイクロメートル(μm・千分の1ミリ)未満、飛沫は5~100μm程度とされてきた。しかし、新型コロナウイルスの粒子の大きさによる空気中の動態の違いなどを観察すると、5μmではなく、むしろ100μmを境に性質の違いが明確になるため、100μmで線引きするべきだと考える専門家が増えてきた。
100μm以下をエアロゾルと定義するにしても、生じるエアロゾルの多くは5μm以下だという。
以前は、小さなエアロゾルは人工呼吸器の管を抜くといった医療行為で生じるとされてきたが、せきやくしゃみでも出るし、歌う、大声を出す、話す、呼吸をするなどの最中にも発生することがわかってきた。米国の研究チームの実験では、1分間おしゃべりをする間に平均で1千個ほど発生したという。
ただし、感染者から出るエアロゾルや飛沫のすべてにウイルスが含まれるとは限らない。また、含まれるウイルスにいつまで感染力があるのかは、液体成分などによって異なる。
■2mを超えて漂う
サイエンス誌の総説によると、100μm超の飛沫は重力の法則により、高さ1.5メートルで排出されると5秒未満で1~2メートルも飛ばず落下する。
エアロゾルは大きさが5μmなら33分間、1μmなら12時間以上漂い、2メートル以上遠くまで行く可能性がある。空調システムによっては、別の部屋に流れていくこともある。ニュージーランドでは帰国した人が隔離生活を送る建物の空調が上下の部屋でつながっていたために、上下の部屋で感染が起きた。