iDeCoのお金を60歳に受け取るとき、一時金受け取り以外では「公的年金等控除」を適用して分割で引き出す方法もある。その際、税金はどれくらい取られる? 「AERA Money 2022秋冬号」から抜粋してお届けする。
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最初にコストの話をしておこう。iDeCoのお金を分割で年金のように受け取るときには、振り込まれるたびに440円の給付手数料がかかる。振込手数料のようなものか……。
仮に毎月受け取ったら、年間で5280円。分割で受け取るときは年1回を選んで手数料を節約しよう。
分割で受け取る場合のコストがもう一つ。iDeCo口座の中に資金を置きっぱなしにするため、信託銀行から月66円の事務手数料を取られる。
年1回の受け取りにしても、「最低でも給付手数料440円+事務手数料66円×12カ月=1232円」がiDeCoを年金で受け取る際の年間コストとして消える。まったく、このあたりはどうにかならないものか。
恐らく、退職所得控除を利用した一時金としての受け取りだけでは「完全非課税」にならない人が、分割受け取りの公的年金控除を検討することになるだろう。
iDeCoのお金の一部を一時金、残りを年金として分割して受け取る場合、できるだけ節税する方法はないか。
ここで本誌は、年金の受給開始年齢を繰り下げるアイデアを思いついた。国民年金や厚生年金は受給開始を75歳まで繰り下げられる。75歳からの受け取りなら84%(約1.8倍)も公的年金の額が増える。
仮に公的年金は75歳受け取り開始にして、60歳から74歳はiDeCoの分割受け取りを利用すれば節税になるのでは?
60歳から64歳はiDeCoのみを年60万円以下で受け取る。65歳から74歳までは年110万円以下で受け取る。ここまででiDeCoのお金をすべて受け取れたら、75歳からは晴れて84%増の国民年金や厚生年金を受け取るというやり方である。
この考え方が正しいかどうか、税理士でファイナンシャルプランナーの西原憲一さんに聞いた。
「理論的にはその作戦でiDeCoの税金をゼロにすることは可能です。ただ、公的年金を75歳以降の繰り下げ受給にすると、年金額が増額されることもあり、公的年金等控除額の110万円を超える部分が増える可能性は高まります」
なるほど……。国民年金だけの人が65歳から受け取る年金が月6万5000円×12カ月=78万円だったとする。公的年金控除の非課税枠110万円の範囲内なので78万円の受け取りなら非課税だ。
この人が75歳受け取り開始にすると、84%アップとして月11万9600円×12カ月=143万5200円。110万円の非課税枠からオーバーした33万5200円に所定の税金がかかってくる、ということだ。