東京商工リサーチ調べで、22年1~8月の負債1千万円以上の後継者不在による倒産のうち、代表者の死亡と体調不良が81.4%を占めた。原田さんは「残された人ではわからず、破産しかなくなる」と話し、事前の後継者選びが重要とみる。
経営者の高齢化で25年に70歳以上の経営者の半数以上で後継者が不在になるという。このままでは廃業が急増し、約650万人の雇用、約22兆円の国内総生産(GDP)が失われるという試算もある。中小企業基盤整備機構の木口慎一審議役は、特に地方で深刻なほか、「休廃業の6割くらいが黒字で、もったいない」と話す。
こうした中、最近は後継者難の中小企業を、若い世代の第三者がM&A(合併・買収)で引き継ぐ動きがある。
「経営者が高齢の企業は新陳代謝が進まない。若い世代の経営者は新規事業への進出やチャレンジ志向が高く、失敗しても挑戦する人が多い。企業の成長のためにも若返りは必要」(木口さん)
ただ、事業承継は時間がかかる。取引先との関係や税務対応、株式の集約、技術・技能の承継など。帝国データバンクの調査で3年超を要した事例が約52%もあった。たとえば、創業時の株主が所在不明だと、その株式の集約は容易でない。
■売り手と買い手 双方にメリット
中小企業基盤整備機構では後継者を探す中小企業と、継承したい第三者に後継者人材バンクに登録してもらうなどして、マッチングに取り組む。買い手に対しては機構が補助金制度の活用を促すなど支援する。木口さんは「相談者、成約とも増えている」と話す。
事業承継されるのは売上高1億円未満で6割くらいで、小規模が多い。木口さんは売り手と買い手の双方にメリットがあるとみている。
「買い手は顧客や設備、ノウハウなど経営資源に魅力のあるものを買う。売る側も、企業が存続し、従業員の雇用も継続される」(同)
とはいえ、個人商店は別として、一定規模の中小企業の経営者が廃業を考えているとわかると、取引先が逃げ出すなど、事業に影響が出るという。M&Aの大原則として、木口さんは「初期の段階では会社名を出さず相手を探し、売り手と買い手を会わせる。守秘は重要で、従業員にも隠して進めるものです」と話す。