■韓国のソフトパワーは米韓関係にも影響

 こうした徹底した管理によるスター育成方法は「インキュベイティング・システム(孵化装置)」と呼ばれる。まさに、学校教育の1年から2年先を教える学院(塾)や、韓国エリートスポーツ制度そっくりだ。BTSの「レベルが違う」ダンスもこうした苦労の賜物と言える。

 そして、K-POPは、海外市場を大切に扱ってきた。韓国大手紙の芸能担当記者は、その理由について「韓国市場は小さいし、国内の競争も激しいからだ」と語る。

 この記者によれば、重要な海外市場は日本、中国、タイを中心とした東南アジア諸国になるという。

 中国には巨大な市場がある。日本人は「一度ファンになると10年間は裏切らない」と言われるほど忠誠心が高く、CDやコンサートの関連グッズの売り上げも大きい。東南アジアの若い世代はソーシャルメディアでの貢献度が高い。BTSも数年前までは、ユーチューブの再生回数の多くを東南アジアの人々に頼っていた。

 このため、韓国の各芸能事務所は競うように練習生に英語や日本語、中国語を学ばせている。BTSは元々、RM以外のメンバーは外国語に堪能ではなかった。数年前、米国のテレビに出演した際、ほとんどRMだけが発言していたほどだ。

 しかし、BTSの成功で、韓国の各芸能事務所の「外国語熱」が更に過熱したことは間違いない。日本人や中国人、タイ人らのメンバーを加えているK-POPグループもある。

 こうした海外戦略に支えられ、韓流文化は世界を席巻している。米国の戦略国際問題研究所(CSIS)が10月5日に開いたオンラインセミナーでは、BTSのほか、世界中で大ヒットしているNetflixのオリジナル韓国ドラマ「イカゲーム」や、昨年のアカデミー作品賞や監督賞などを獲得した映画「パラサイト 半地下の家族」が話題になった。セミナーに出席したクリントン政権で国防次官補を務めたハーバード大学のジョセフ・ナイ特別功労教授は、「韓国のソフトパワーは米韓関係や金正恩(朝鮮労働党総書記)にも影響を及ぼすだろう」とまで語った。(朝日新聞記者・牧野愛博)

AERA 2021年10月25日号より抜粋

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