私が差し出す「マツコ話」というのは、取るに足らない昔話や土産にもならないようなものばかりですが、マツコの「マ」の字を発しただけで、瞬時にスタジオ中の目や耳、カメラのレンズがこちらにフォーカスするのが手に取るように分かります。そして決まって「ありがたや」という空気が漂い、さらに地方の番組などでは、本人がいないにもかかわらず妙な緊張感が走る時すらあります。これらの反応を、私は「マツコバイアス」と呼んでいます。

 バイアスとは、言うならば「決めつけ」です。「マツコネタはどんなものでもありがたい」という盲目的な決めつけがこの先もっと巨大化すれば、彼女自身の本質や本領に勝手なリミッターがかかってしまうリスクが出てきます。その内、「マツコさんの屁を缶詰にして売りたい」なんてところが出てきやしないか心配です。

 無論、まだテレビにも出ていなかった頃から、自分の屁やゲップの「値打ち」というものを、ちゃんと自覚していた人です。おいそれと定価を付けるようなことはしないはず。どこかで見かけても偽物ですから、うっかり買わないようにしてくださいね。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

週刊朝日  2023年2月3日号

著者プロフィールを見る
ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

ミッツ・マングローブの記事一覧はこちら