
昨年亡くなった、夫で作家の藤田宜永さんとの思い出をつづったエッセー『月夜の森の梟』が、新聞連載時から多くの共感を呼んでいる作家・小池真理子さん。ご夫婦ともに親しかったという林真理子さんに、二人の暮らしを語っていただきました。
【小池真理子も驚いた夫の“切ない愛の言葉” 「よくそんなセリフが…」】より続く
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林:『月夜の森の梟』の前に出された『神よ憐れみたまえ』は、構想10年の書き下ろしということでしたが……。
小池:あの作品は、残り150枚か200枚ぐらいまで来ていて、あと少し書いたら推敲、というところで、藤田が末期がんの宣告をされたんです。
林:まあ、そうだったんですか。
小池:私はちょうどその数カ月前、『死の島』という、がん患者の尊厳死をテーマにした作品の連載を終えたところでした。藤田をモデルにしたわけでもなんでもなくて、ずっと前からあたためていたテーマだったんです。でも、彼のがんがわかったのは、『死の島』が、単行本になって刊行された2週間後。でも、作家ってこういうことありません? デジャヴ(既視感)というか。「これ、私が以前小説で書いたとおりのことが起こってるな」と思うことが。
林:あります、あります。
小池:いきなり「末期の肺がんで、余命半年です。年を越せるかどうかわからない」って言われて。それが2018年の春でした。もう、書くどころじゃなくなってしまって。
林:「相棒をなくしたような気持ち」って、書いてましたね。
小池:「おしどり夫婦だったから」とか「ラブラブでしたもんね」とかおっしゃる方が多いんですけど、それはかなり遠い昔に卒業しています。彼の死をあえて形容すれば、森の中の湿った巣穴の中で、居心地よく一緒に住んでいた相手の動物が、罠にかかって死んじゃったみたいな、そういうイメージですね。
林:「私たちは繭のように生きてきた」って書いてありますけど、あのすてきなおうちの中で、ピアノを弾いたり、猫ちゃんと戯れたりしながら、あまり外に行くこともなく、外食もなさらず。