
最新エッセー『月夜の森の梟』が、圧倒的な共感を呼び、話題になった小池真理子さん。夫で作家の藤田宜永さんの病と死に向きあった。お二人と親しかった林真理子さんは、「魂ごとわかり合える」ご夫婦のあり方に、あらためて感激していました。小池さんと林さんの対談です。
【作家・小池真理子が語る夫の死 「小説で書いたことが起こってる」】より続く
* * *
小池:私たち、子供もつくらずダブルインカムだったので経済的にそんなに困らないし、そろそろ仕事のペースを落として、彼が長くいたフランスに1カ月か2カ月滞在して、そこからヨーロッパをいろいろ回ろうという計画を立てていたんです。私も『死の島』が本になって出てしまえば、あとはゆっくりゆっくりやろうと思っていたので、すごく楽しみにしていたんですよ。
林:そうだったんですね。藤田さんって、基本的には寂しがり屋のお坊ちゃまだったんですよね。
小池:うん、本当にそうです。
林:ピアノを弾いてて、私が「ショパンとジョルジュ・サンドみたい」と言ったら笑ってたけど(笑)。
小池:軽井沢の家は、ピアノを弾くと、音が家中、筒抜けになるんですよ。私の書斎の真下がピアノを置いてある部屋なんですけど、私が仕事をしているときもお構いなしに弾き始めるような、そういう自分勝手なお坊ちゃまでした。私が怒ると「あ、悪い悪い」って言いながら弾き続ける。ある意味、伸び伸び育った人ではありました。
林:育ちのよい感じは、いたるところにありましたよね。
小池:だけど、彼いわく「支配的な母親に育てられなかったら、俺は作家になんかならずに、ずっと福井にいて小さな会社に勤めて、ふつうに結婚して子供をつくってたかもしれない」って。
林:そういうお母さまから逃げて、小池さんみたいな自立した女性と愛し合って、家庭を持ったのは運命だったのかもしれませんね。
小池:母親から逃げたくて、母親の代理を探してたんでしょうけれど、お母さんの役をやってくれる女性なんかいないじゃないですか。林さんも同じような世代だからわかると思うけど、70年代前後から女性の自立が提唱されて、男にツンケンしたもの言いをする女の子たちが増えてきましたよね。彼はそういうツンケンした女性たちを口説いてみて、うまく自分になびいたら自信がつくという流れで楽しんでいた時期があったみたい。