
「コンビニ百里の道をゆく」は、52歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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熱戦続きの名勝負だった日本シリーズで締めくくられた今年の野球シーズン。私にとっても大満足の1年でしたが、何といってもいちばんの楽しみはエンゼルスの大谷翔平選手の存在でした。
そのプレーはもちろん、私がさらに驚いたのは、シーズン終了後の大谷選手の姿です。満票でア・リーグのMVPに選出されるという偉業達成の瞬間も、喜びを大きく顔に出すこともなく淡々とされていました。
終わったシーズンにMVP? そんなことよりも、調子を落として「ヒリヒリした9月」を送れなかったのが悔しい。それを晴らすために、もう来シーズンに向けてトレーニングをやりたい。大事なのは「誰にどう評価されるか」ではなく、自分の可能性と勝利欲に素直になることであり、それに対する努力は一秒も惜しまない。今日できなかったことが明日できて、明日できなかったことが明後日できる。そこだけに、喜びを見つけ出したい。グラウンドでのあのスーパースターぶりを支えているのは、そんな彼の姿勢なのだと感じました。

見ているこちらからすると、投手としての2桁勝利とホームラン王を懸けて戦っていたシーズン終盤は、十分すぎるほどヒリヒリしたもの。そんな戦いを終えたら、私ならひと月くらいぼーっとしていたい(笑)。でも彼はそこにとどまらないんですね。
彼が口にした「今年の成績が最低ライン」という言葉が印象的でした。「自分は成長したいんだ」「勝ちたいんだ」というところが常にファーストプライオリティー。そんな自分の「軸」は、何があっても絶対にブレない。そういう強い意志と精神性を大谷選手の中に感じるんです。
あらためて「とんでもない選手が出てきたな!」という喜びとともに、もう今から、来年3月の開幕を心待ちにしたいと思います。
竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長