がん治療が高度化・細分化する中で、患者の潜在的なニーズをつかむことが難しくなっている。患者に適切な情報や選択肢を提供するためには、どうしたらいいのか。AERA 2022年11月7日号の記事を紹介する。
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静岡県の公務員の男性(50)が肺がんの手術を受けたのは、2016年の秋だった。手術の結果、がんの進行度は「ステージ3A」。術後、回診に来た主治医に、不安のあまり尋ねた。
「先生、僕はあと、どのぐらい生きられるんですか?」
主治医は、淡々とこう告げた。
「しっかり治療すれば、2年ぐらいは生きられます」
当時、長男は中学3年生。長女は小学4年生。
<治療を頑張っても、2年しか生きられないのか……>
術後に再発防止の抗がん剤治療を行ったものの、翌17年にがんがリンパ節に多発転移した。
これまでに使った薬剤は、従来副作用が強めの「殺細胞性抗がん剤」が5種類、がん細胞に特有の標的分子を狙い撃ちにする「分子標的薬」が1種類、がん細胞によって抑えられていた免疫機能を再び活性化させる「免疫チェックポイント阻害薬」が2種類。初めに行う抗がん剤治療を「1次治療」というが、臓器などにできるがんの場合、その効果が乏しくなったり、副作用で続けられなくなったりした場合に、次の治療「2次治療」に切り替える。男性は、「5次治療」にまで進んでいる。
現在は放射線と抗がん剤を併用する療法を終え、通院して、保険適用の免疫チェックポイント阻害薬の治療を受けている。
18年6月には「がん性リンパ管症」で、命の危機に瀕(ひん)していた。増殖したがん細胞がリンパ管に入り込んで詰まってしまう病気だ。この時点で遠隔転移のある「ステージ4」になった。
「CT画像を見たら、右の肺は真っ白で……。医師からは、『数カ月もすれば右の肺機能は失われるでしょう。次の治療が効かなければ、数カ月から半年位の命』だと言われました」
■可能性ゼロでないなら
この時、3次治療として、医師から複数の選択肢を提示され、男性は「免疫チェックポイント阻害薬」を使う療法を選んだ。これは、同年に日本で承認されたばかりの新薬だった。効く人は3割程度だが、効く人には比較的長く効果をもたらすとの説明だった。ただし、重大な副作用もあり、どのような副作用が出るかは未知数だという。