北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 日本では年間約15万人が中絶をしている。その6割が掻爬での処置で、4割が吸引で行っている。掻爬での中絶はWHOが身体への苦痛をもたらすとして警告をしている方法だ。また、掻爬での処置はある程度週数を経ないと処置ができない。そのため早期に妊娠が分かった女性が病院で中絶を求めたときに、「あと2週間後に来てください」と言われることは珍しくない。中絶するために「2週間、大きくするのを待って」と言われた女性の悔しさを、これまで何人も聞いてきた。

 私にも中絶体験があるが、「日本は先進国だから、合法的な中絶が高度な医療技術のもとで受けられる。ああ日本に生まれてよかった!」と90年代の日本に暮らしていることに感謝したものだが、考えてみれば当時も既に世界には中絶薬があり、掻爬は女性の身体に負担をかける危険な中絶方法とされていたのだった。私は知らずに危険な中絶処置を高い金額で受けていた。そして日本に暮らす限り、多くの人が今も同じ状況にある。

 中絶する女性を罰する視線ではなく、中絶を求める女性やトランス男性たちの尊厳を守り、人権の観点から安全で安価な中絶を。薬の運用には、どうか妊娠する側の声を採用してほしい。いや、お願いではなく、採用すべき、であろう。

 ところで、最近、サラ・シルバーマンというアメリカ人コメディアンのステージを見た。アメリカの一部の州では、中絶を考える女性に超音波で生命の存在を確認しなければいけない法律がある。それに対するサラのジョークだ。

「精子には嗅覚があるんだって(科学的に証明されている)。ということは、精子は生命であると言えるよね。ということは……法律をつくらなきゃ!! まだ生まれてない子を助けたい!! 精子を出す前に、クリニックに来なさい。長くて細い針状の器具をペニスの穴から尿道に沿って奥まで差し込み、そこから精巣まで器具を挿入して超音波画像を見せる。これがあなたの玉に宿る生命ですよ!」

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国連の人権委員会では結論が出ていたこと