作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、日本で実用化される見込みの中絶薬について。
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ついに! 日本でも中絶薬の実用が現実的になってきた。今週、イギリスの製薬会社が厚労省に製造販売の承認申請をするという。承認までには約一年かかるが、これでようやく日本も世界標準の中絶方法になる。
中絶薬とは、ミフェプリストンとミソプロストールという2薬を使い流産を促すもの。1980年代に安全が確認され、現在世界82カ国で使用されている(ミソプロストールだけでの中絶を認めている国となると、さらに増える)。バイアグラ以外の薬に慎重な日本……と嫌みも言いたくなるが、女の性に厳しい社会では運用に関しても懸念は残る。
例えば価格だ。
ミソプロストールは日本では既に胃潰瘍治療薬として承認されており、卸価格は30円ほどだ。ミフェプリストンとあわせても、世界平均の卸価格は780円、高くて1400円以下 (WHO2019)だという。では日本では薬価(患者に提示される金額)はいくらになるのか? 中絶手術の料金価格と同等の10万円ほどになるのでは?という不安が尽きないのは、薬価の決め方が一般人には分かりにくく、製薬会社や産科医の思惑が価格に影響を与えるのではとも言われるからだ。どうか国際基準にそろえてほしい。
さらに、日本には明治時代からの堕胎罪が残っている。国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)が堕胎罪の撤廃を求めても日本政府は無視してきた。薬による自己堕胎は堕胎罪で罰せられることになっているが、明治時代に考えられていた薬とは状況が違う。中絶薬の実用とともに堕胎罪改正・撤廃が求められるのではないか? 国はどう考えているのか?
12月9日、中絶薬に関する意見交換が参議院議員会館で行われた。長年この問題に取り組んできた中絶問題研究者の塚原久美さんらが主催し、厚生労働省や法務省の官僚、国会議員らが参加した。世代を超え女性たちが中絶を語る熱い会だった。
「中絶をしたくて妊娠する女性はいないんです。だから女性の人権の立場から考えてほしい」