西部氏たちは、民主主義を危険な愚民主義だと批判していた。私も、民主主義には危険性もあると捉えている。だが、賢人政治を主張する西部氏に、「一体、賢人は誰がどうして選ぶのか」と問うたとき、答えは得られなかった。
私は、戦争を知っている最後の世代である。小学5年生のとき、先生から、「この戦争は世界の侵略国である米英両国を打ち破り、アジアの国々を独立させるための正義の戦争である。君たちも早く大人になって戦争に参加して、天皇のために名誉の戦死をせよ」と教えられ、信じていた。
だが、夏休みに玉音放送があり、2学期になって米軍による占領体制ができると、大人たちは「あの戦争は絶対にやってはならない悪い戦争であり、正しいのは米英であった」と強調し、それまで英雄としてたたえていた人間たちを「逮捕されて当然の悪い人間」と言いだした。
こうした百八十度正反対の変化から、私はえらい人間やマスメディアの言うことを全く信用できなくなり、自分でしっかり確かめなければならないと思い、ジャーナリストになろうと考えた。民主主義の重要さを痛感したわけである。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2022年1月7・14日合併号