林 前にどこかのインタビューで「思い出だけじゃ描くのがつらくなった」とおっしゃってましたが、そのときは、こねる材料がなくなっちゃったんですか。
みつはし いや、こね続けてます。でも年とともに「ま、いいか。この辺で」と自分に甘くなっていますね。甘くなると世界が広々してきたりして具合がいいのですよ。昔、私の漫画を売りこみに行く前にサリーにみてもらったんですよ。喫茶店で。
林 サリーのモデルになった彼ですね。
みつはし なんにも言わなかったから、おもしろくなかったのかなと思ったら、「みつはしさんの漫画って、チャーリー・チャップリンと共通するところがあるね。ユーモアとペーソスがあるよ」って、ちょっと興奮したみたいに言うんです。
林 ええ。
みつはし 私、ユーモアはわかるけど、「ペーソスって、どういうこと?」と辞書を引いたのですけど、どれもピッタリこない。そうか、チャップリンのような寅さんのような、噴き出しながら、ジーンとくるような場面のことかもしれない。でも私はまだまだという思いで夢の途中ですね。
林 えっ!? まだ途中ですか……。
みつはし 本当の漫画家にはまだなれてないという感じがします。
(構成/本誌・唐澤俊介 編集協力/一木俊雄)
※週刊朝日 2022年10月14日-21日合併号より抜粋