下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。
下川裕治(しもかわ・ゆうじ) 1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。
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「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。今回は、タイとミャンマーとの国境について。

【写真】国境脇のマーケット。足を踏み入れるのが少し怖い

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 タイとミャンマーの国境。タイ側のメーソートに行ってきた。僕は毎週、YouTubeで「ミャンマー速報」を伝えている。そこで伝えるミャンマーの惨状が、国境越しに見えるとは思えなかったが、やはりミャンマーを見てみたかった。

 メーソートに行くのは簡単だと高をくくっていた。メーソートはバンコクの北西約480キロ。バスで6時間ほどかかるが、夜行バスは1日数便あった。しかしバスの予約サイトを見て、ちょっと焦った。1日1便に減便され、それも満席だった。飛行機は1日おきの運航だった。新型コロナウイルスで人の流れが止まっていた。

 日程をずらし、なんとか行きのバスと帰りの飛行機を確保した。早朝にメーソートのバスターミナルに着き、その足で国境に向かった。国境はモエイ川という20メートルほどの幅の川で、そこに橋が架かっている。以前は荷物を満載したトラックや歩いて渡るミャンマー人たちでにぎわっていた。しかし橋の入口は二重に閉鎖されていた。

 橋の脇にミャンマーの物産などが手に入る大きなマーケットがあった。しかしテナント店はすべてシャッターが締まり、野犬の寝場所になっていた。新型コロナウイルスの感染が広まり、国境が閉められてから約2年。ゴーストタウン化したマーケットは薄気味悪かった。

 橋の近くのミャンマーが見える場所に立った。川原との境には有刺鉄線が張り巡らされている。そこでタイ軍の兵士にとり囲まれてしまった。密入国の疑いをかけられてしまった。「川を渡ってきたのか」「パスポートを見せなさい」……。空気はピリピリしていた。

 報道では1日に100人近いミャンマー人がタイに逃げ込んでいるようだった。昨年の2月1日にミャンマーで軍がクーデターを起こした。多くの国民が抗議し、軍は彼らへの弾圧を繰り返している。指名手配された人の一部はタイ国境付近に逃げている。そこを軍が襲撃。追い出されるように越境してくるのだ。

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ミャンマー人がどんどん増えてきている