米国が、飛行禁止区域設定を実行したことは過去にはある。イラク、ボスニア、リビアなどだが、いずれも核兵器を大量に保有する国家に対する戦略ではなかった。

 プーチンが「現状の経済制裁でさえ、宣戦布告」と主張するさなか、ロシア軍機が飛行禁止区域内で撃墜されれば、「全面戦争」の引き金となるのは明らかだ。

 冷戦後の均衡と安定が保たれるのかどうかという戦況は、見通しが極めて厳しい。米紙ニューヨーク・タイムズは、ウクライナの首都キエフ近郊の都市に対する砲撃で、命を落としたばかりの母子の遺体の写真を1面トップで掲載した。米メディアとしては異例の報道だ。

 内戦があったシリアやアフガニスタンなどと異なり、民主主義のウクライナからは、市民のソーシャルメディアを通した窮状が世界に直接伝わる。米市民の84%が、ウクライナ情勢のニュースを追っているというほど関心を集めている「戦争」だ。

 外交的には、プーチン大統領がほのめかす核兵器使用の可能性による制約、そして国内では中間選挙を前に攻撃的になれない、という二つの「くびき」がバイデン政権にのしかかる。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)

AERA 2022年4月4日号より抜粋