養老:いろいろですよ。コオロギとか。僕は実験用に飼っている動物っていうのは、動物じゃないと思ってて。とにかく冷暖房完備の建物で、えさと水に一切不自由しない状況で生きていますから。解剖して体の中を見るでしょ。生活に要らない部分がたくさんあるんですよ。今の人間もそう。冷暖房完備で、決まった硬さの地面しか歩いていないし。
大宮:退化している?
養老:家畜化です。解剖学では古くから人間は自己家畜化したと言われていて。行動パターンも完全にそうですね。過去に経験していないと適切な判断ができない。
大宮:なるほど。私も周囲で「イレギュラーなことがストレス」という方が増えてきてビックリしています。イレギュラーこそ面白いと思うんですけど。それは家畜化なんですね。
養老:家畜化と呼んでいるんだと思います。実験室で飼っていたら何のためのものかわからない性質がたくさんあるわけ。例えば唾液腺(だえきせん)。子育てしている雌ならしょっちゅう子どもをなめるでしょ。でも実験室で決まり切った環境だとわからない。
大宮:生き物を調べるには野生の状況で調べるのが正しいんでしょうけど、物理的に難しいですもんね。
養老:そういうふうに、わかりやすいところだけわかるってのが、今の科学なんですよね。
※AERA 2022年4月18日号