男という生き物は、どんなに歳を取っても思春期・反抗期的な側面を持っており、それが人(特に異性)の心をくすぐります。坂上さんの「正義感」や「負けん気の強さ」、それでいてひたすら「駄々っ子」な気質は、まさにその極みです。なかなか世間はそこを素直に認めたがらないようですが、坂上忍ほど「かわいい男」はいないのではないでしょうか。ご本人としても、こんな風に言われるのは本意ではないかと思いますが、54歳でありながら、あれは魔性級の「かわいさ」です。
そして、あの刹那的で儚い雰囲気というのは、私がこの連載で散々書いてきた「アイドル像」にほかなりません。時に本物のオバちゃんよりも甲高い声で、『バイキング』を闘い続けていた姿は、色気以外の何物でもありませんでした。こういうザラついた魅力を、とかく面倒臭がる時代であるのも事実ですが、日本のお昼から坂上忍という面倒臭い男がいなくなることで、世の中がまた一歩、人畜無害で退屈なものになったことは確かです。
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
※週刊朝日 2022年4月15日号