本社社屋は、駅に負けず劣らず年季の入った木造平屋だった。対応してくれた鈴木さんは、「なんでもやりますから」と、3カ月間粘り続けて入社を果たした熱血鉄道マン。穏やかな口調だが、ときに言葉に熱を帯びる。
「もともと銚子と犬吠を結ぶ銚子遊覧鉄道という路線があったんですが、4年で廃線になりました。利用客が伸びなかったうえ、第1次世界大戦で鉄が高騰したので、線路を売ったそうです」
そんな理由で鉄道会社が解散するとは。
◆500万円集めた銚子商業の生徒
同線廃線の6年後に営業開始した銚子鉄道→銚子電鉄の浮き沈みは、日本の近現代史をそのまま反映したかのようだ。空襲、高度経済成長、自動車の普及、バブル、東日本大震災。小さな鉄道会社は翻弄され続けた。
丁寧に社史を語る鈴木さんだが、再三にわたって説明を中断。電話がかかってきたからだ。この日、本社勤務の従業員は、鈴木さんだけ。何役もこなさないといけない。
経営が本当に危機的になった銚電は、手を差し伸べてくれた地元工務店の子会社となった。90年のことで、世はバブル景気にわいていた。
「親会社の社長は、駅舎をヨーロッパ風にしようと提案したんです」
四つの駅舎がおしゃれに新装された。
が、バブルが弾けた。
こじゃれた駅舎の維持や修理にかける金はない。銚子駅に風車がないのはそのためだった。
深刻な赤字経営が続くなか、2014年に脱線事故が起きる。銚電には故障した車両を修繕する金もなかった。
「そのとき銚子商業の生徒さんが、クラウドファンディングで500万円ものお金を集めてくれたんです」
なんとも泣かせる話で、取材は終わった。
銚子駅に戻り、竹本社長が共著書に記していた「大衆酒場ドリーム」に入った。まずは瓶ビール(赤星)と煮込み。その後、イワシの丸干しが来たので燗酒を頼んだ。
丸まる太ったイワシのうまいのなんの。これだけでも銚子に来た甲斐があったというものだ。
いい気分になりながらパンフレットを見てみたら、弧廻手形を提示すれば、犬吠にある四つのホテルで日帰り入浴が300円引きと書いてある。
そんな恩恵があるとは気づかなかった。次はぜひとも犬吠で温泉に入ると心に決め、燗酒のお代わりをしたのであった。(本誌・菊地武顕)
※週刊朝日 2022年4月22日号