「トランプはツイッターにはしばらく戻らないフリをした後、戻ってくるはずだ。彼がもし一言もつぶやかなくても、彼のアカウントが復活するだけで『虚偽発言や過激な発言をしてもいい』という承認スタンプになってしまい、致命的だ」
マスク氏の影響力は若い米国人男性の間で特に絶大だ。その波及力は都会に限らない。筆者がかつて住んでいたミシガン州の人口6千人の小さな町で、森と湖の大自然に囲まれた高校に通う男子学生たちの間で、最もはやっていたユーチューブの動画のひとつが、マスク氏がポッドキャスト収録現場でマリフアナを吸う映像だった。
「イーロン・マスクの言動の全てが僕たちには“ミーム”であり娯楽なんだ」と男子生徒が興奮して語ったのを覚えている。
民間ロケットを宇宙に飛ばし、火星に行こうと人々を鼓舞するマスク氏は、経済不安や紛争や環境破壊などで閉塞(へいそく)した世の中に生きる若者に、非日常の夢を実現してみせてくれる型破りな大人でもある。
■彼はクビにならない
その点はマスク氏を批判するカルソン氏も認める。
「どんな言動をしても彼が会社からクビになることはなく、自分の金でワクワクする夢をかなえている姿に若者が熱狂するのはよくわかる。だからこそ、弱者が標的になるネットの場で、誹謗中傷と加害が簡単に可能になるような改悪はやめてほしい」
ツイッター社の社員たちも「コンテンツ規制緩和」の可能性への不安を表明しはじめた。
モーニングスター社の証券アナリストのアリ・モガラビ氏は「マスク氏が大幅な規制緩和をすれば、政府の規制にあうことも予測される」とリポートに記した。また、ツイッター社が既存の広告主を失う危険性も議論され始めている。
(ジャーナリスト・長野美穂(ロサンゼルス))
※AERA 2022年5月16日号