「私たちの研究では、日常的に使うなら不織布マスク。ウレタンマスクでは防御にならず、さらに人にうつさないという目的においてもほぼ役立ちません」
加えて重要なのは、マスクを顔に密着させること。頬とマスクの隙間からウイルスを含む空気がダダ漏れに入ってくれば防御にならない。まずは、適切な着け方をすること。鼻の稜線(りょうせん)と頬の上部にぴったり合わせ、上は目の下、下は顎まで広げ、顔に合わせて着ける。
「それでも100%防御は不可能。マスクを着けている時の動作で密着性は大きく落ちる。着けている時はつねに密着度に注意し、顔に合わせて微調整が必要。マスクの表面がウイルスで汚染されているなどということはないので心配ご無用。人間の緊張感はそう長く持続できません。マスクが本当に必要な時とそうでない時を区別し、屋外で必要ないときはマスクをポケットにしまって思いっきり深呼吸をする。危ないと思ったら取り出し、緊張感を持って着けることが大切です」(西村さん)
一般的な不織布マスクは長時間の使用で素材が劣化する。着けっぱなしは、「人にうつさない」「防御」どちらの目的も果たせなくなるという。
■マスク依存症の懸念
2020年12月、医師12万人以上が参加する医師専門コミュニティーサイト「MedPeer」が、会員医師に「コロナ禍のいま、広がる新現代病」についてアンケートを実施(有効回答1058人)。2位は「マスク依存症」だった。その傾向が一層強まっているかもしれない。
精神科医の宗未来さんは「病的な部分でマスクを手放しづらくなる人がいます。摂食障害や醜形恐怖症、社交不安障害の人はマスクで顔を覆うことで安心感を得ています」と話す。
宗さんが懸念しているのは、マスク依存症が、SNSの流行や美容ブームなど外見至上主義が加速する社会全体に波及し、不安を膨らませていく危険性だ。
「マスクで安心を得ている人が回避的に常にマスクを着けていると、この先マスクを外すことへの抵抗感がますます強まり、人からの注視場面はもちろん、行動全体まで不安に怯(おびえ)えて、消極的に足を引っ張りかねないのです」(宗さん)
正しい知識でマスク着用を。(ライター・羽根田真智)
※AERA 2022年5月30日号より抜粋