残り半年を「仕切り直し」で有意義に過ごす(イラスト/サヲリブラウン)
残り半年を「仕切り直し」で有意義に過ごす(イラスト/サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 唐突ですが、「仕切り直し」ってすごく難しいですよね。

 5月も半ばを過ぎ、この調子だとあっという間に半年が過ぎてしまいそう。2022年、今までのところは本を出版したり、チャレンジングなインタビューを行ったり、コロナに罹ったり、慌ただしく過ぎていきました。一方で、世には出ていないが時間やコストをかけてきたものもある。端的に言うと、なにかに追われるようにバタバタとやってきてしまった感が、やや拭えないのです。

 ここらで一旦仕切り直しをしたいのですが、すべてのものごとは流動的且つ継続的であることと、最近よく聞くサンクコストなるもの、つまりここまでに費やしたお金や労力や時間、がもったいないと感じて方向転換が難しくなってしまう現象があります。

 たとえば大人数が携わる仕事のプロジェクトなら、予算を達成できずにプロジェクト自体が消滅するとか、他部署の都合で強制終了されることもある。これはこれで歯がゆいものではありますが、仕切り直しは可能です。

 厄介なのは、自分で決めなければいけないこと。私は運転免許を持っていませんが、愛着はあるが壊れやすい車に乗っている人は、いつも買い替えという仕切り直しが選べずストレスを感じているように見えます。注いだ愛情と同じくらい、これまで掛けた修理代も馬鹿になりませんし。

 たとえば美容院。担当が辞めてしまい、新しい人との相性がイマイチな場合。新たな美容院を探すのも面倒だし、美容院自体は気に入っているし、かといって同じ美容院の別の担当に再び代えてもらうのは気まずい時。なんだかなあと思いながらそのままに。

(イラスト/サヲリブラウン)
(イラスト/サヲリブラウン)

 仕切り直すにも、仕切り直さずにいるのにも、どちらにもストレスが掛かることって、意外とたくさんあるのです。惰性という名の船に乗って、小さな穴から入ってくる海水に足元が濡れるのを眺めながら、この船は沈むのかしら……と考えたり、見なかったことにしたり。

 自分で決めるのって、本当に負荷が強い。若い頃は自信がないことが一番のハードルでしたが、大人になると「めんどくさい」がすべてに勝ってしまう。我ながら、良くないなあと思います。

 残りの半年を有意義に過ごすためにも、ここらで大胆な決断をしないとね。まだ見ぬ不安より小さな不幸を選ぶのは、魅力的ではないものね。

AERA 2022年5月30日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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