ロシアが完全支配を目指すウクライナ東部のドネツク州でも多くの被害が出ている(photo Anadolu
ロシアが完全支配を目指すウクライナ東部のドネツク州でも多くの被害が出ている(photo Anadolu Agency via Getty Images)

 長期化するロシアによるウクライナ侵攻の即時停戦を求め、日本の学者らが声明を出した。和田春樹・東京大学名誉教授と田中優子・法政大学前総長が思いを語り合った。AERA 2022年6月13日号の記事を紹介する。

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 歴史学者で東京大学名誉教授の和田春樹さんらが3月15日、「ウクライナ戦争を1日でも早く止めるために日本政府は何をなすべきか」と題する声明をオンラインで発表した。「ロシア軍とウクライナ軍は即時停戦し、停戦交渉を正式にはじめよ」という内容だ。5月9日にも韓国の研究者と共同で、「戦争が続けばつづくほど、ウクライナ人、ロシア人の生命がうばわれ、ウクライナ、ロシアの将来に回復不能な深い傷をあたえることになる」としたうえで両国軍の戦闘行動の停止を求め「真剣に停戦会談を進めるように呼び掛けたい」と訴える声明を出した。 

 和田さんと、2回目の声明で賛同者として署名した法政大学前総長の田中優子さんの対談は、即時停戦の意義から始まった。 

和田:2月24日に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻は、ロシアについて長年研究してきた者として大きな衝撃を受けました。まさに暴挙です。驚いたことに、28日にベラルーシのゴメリ州で両国の停戦交渉が行われたのです。戦争開始からわずか4日後に停戦のための会談が行われるのは異例です。朝鮮戦争では停戦会談が始まるまでに約1年かかっています。ウクライナとロシア双方に「戦争はしたくない。話し合いに応じよう」という態度があるのを見て、私は国民同士の関係が決定的に破壊される前に「まずは停戦を」と考えました。3月半ばにロシア軍がキーウの包囲を進めた段階でさらにその思いを強くし、3月15日に声明を出すに至りました。 

田中:今、西側諸国がウクライナに武器を供与して戦闘が長期化する姿を生活レベルに引き付けて考えると、例えば「夫が妻や子どもに暴力を振るっている場面で、妻や子どもにこん棒や銃を渡すだろうか?」となります。暴力に暴力で応酬することが何を引き起こすか、日常的な経験の中からも考えなければならないと思います。人類の中での「暴力」という問題を、どんなレベルであれ、止めなければなりません。 

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