法政大学前総長・田中優子さん(たなか・ゆうこ)/1952年生まれ。法政大学名誉教授。専門は江戸時代の文学・生活文化、アジア比較文化。著書に『遊廓と日本人』など(photo 本人提供)
法政大学前総長・田中優子さん(たなか・ゆうこ)/1952年生まれ。法政大学名誉教授。専門は江戸時代の文学・生活文化、アジア比較文化。著書に『遊廓と日本人』など(photo 本人提供)

■飢餓が拡大する恐れ 

田中:一方で今、地球温暖化をはじめとして世界の「持続可能性」が極めて脆弱(ぜいじゃく)になっています。今回もウクライナやロシアから穀物が輸出されなくなることで、アフリカなどでは飢餓が拡大する恐れがある。つまり単なる戦争状態ではなく、地球問題に直結する状況です。「二国間の問題」で済ませて「どっちの味方をするか」という話をしている場合ではない。私たちの選択肢は「まず停戦すると決める」。それしかないと思います。そのためにさまざまな方法を考え、手を尽くしていく。 

和田:その方法について、最初の声明で「戦闘停止を両軍に呼びかけ、停戦交渉を本格開始せよ、仲介するのはロシアのアジア側の隣国、日本、中国、インドがのぞましい」としました。 

 それまでトルコやイスラエルなどによる停戦仲介の話もありました。それはそれでいい。ただ、ロシアと国境を接し、ロシアの行動に不安を感じている国がアジアにもいる。そういう国こそが「戦争を早くやめてくれ」と仲介に出るのが自然じゃないかと考えました。 

■日本が仲介に動いて 

和田:一番重要な国と言えば、やはり大国である中国やインドでしょう。この2国は国連の対ロシア非難決議にも棄権しているので、ロシアと話がつきやすいと考えました。 

 日本人としては日本政府に仲介に動いてほしい。日本はロシアに制裁もかけていますし、ウクライナ支持を明確にしています。しかし、ロシアとは非常に深い歴史的関係があり、4回の大きな戦争をし、領土問題の交渉ももう60年以上やっている。そんな国が仲介に手を挙げ、中国とインドに呼びかける案を出せば、「私たちの提案は真剣なものだ」と示すことができると思ったんです。 

田中:賛成です。さらに言えば、たくさんの国がそこに加わって停戦仲介をする組織ができればもっといいと考えています。 

和田:私たちは1回目の声明を出した翌日、外務省に申し入れをしました。ところが日本政府はやってくれない。これでは間に合わないので、2回目の韓国との共同声明では、中国やインドのほか、南アフリカ共和国や、インドネシア、ベトナムといったASEAN(東南アジア諸国連合)諸国などの国々に仲裁に加わってほしいと訴えました。 

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