では、海外ではどうなのか。コロナ以前からテレワーク先進国だったアメリカでは、現在は対面コミュニケーションの重要性が見直され、いかに社員を出社させるかが議論となっているという。
「アメリカ、そして日本でもIT企業は、これまで何度もテレワークと出社の間で“揺り戻し”が起きています。頭の切れる優秀な人材がリモート会議をすると、通信の遅延による声の被りがあったり、悪気はないのに必要以上にきつく伝わったりして、その場の空気感がつかみにくくなる。対面の方が、活発に議論を交わしやすいですし、それによって斬新なアイデアが生まれやすい。それゆえ、今はまた対面コミュニケーションの価値が高まっています」(常見さん)
だが、対面コミュニケーションが重要だとわかってはいても、テレワークが定着した企業が「週5出社」に戻すのは容易ではない。従業員からの反発も大きいだろう。そこで、アメリカでは出社とテレワークを組み合わせた「ハイブリッド型」が増えつつある。
■折衷案は週2~3出社の「ハイブリッド型」
4月からはグーグルとアップルが「ハイブリッド型」の勤務制度をスタートさせている。
「テレワークを希望する人が増えている中で出社を強制すれば、優秀な人材に離職される恐れや、採用力が落ちる懸念があります。そこで、週2~3日出社で“落としどころ”を探しながら、(アメリカの)企業は幅広く採用候補者を集めようとしています。日本でも、バランスの取れた『ハイブリッド型』が、ほとんどの企業にフィットする働き方だと思います」(小林さん)
そんな中で、NTTは国内の主要グループ会社の従業員3万人を対象に、7月からは「原則在宅勤務」にすると打ち出した。その背景ついて、常見さんは「外資系企業に優秀な人材を取られないようにするためだろう」と推察する。
「NTTや日立を日系IT企業としてみると、人材確保で競合となるのはアクセンチュアやデロイト トーマツなどの外資系コンサル企業になります。日系IT企業に在籍する若手で、ちょっと優秀な人であれば、給与が1・5倍以上で、かつ労働環境がいい外資に転職できます。NTTは『原則リモートワーク』という新制度を打ち出すことによって、労働環境の充実をアピールしたのでしょう。ただ、やはり対面で接することによる化学反応が起きにくくなるリスクはある。そこは今後のトップと現場管理職の腕の見せどころになるでしょう」
ポストコロナの「働き方」は、今、過渡期を迎えている。(AERA dot.編集部・岩下明日香)