そして改めて恐ろしいのが、いつも以上に近距離で人々が集まる中で、何かを掻い潜るわけでもなく堂々と真後ろから銃が放たれたという事実。私たちは「銃」というものに何の親しみも想像力も持っていません。下手すれば警護をしている人たちにとっても気持ち的には「無防備」であるのが日本社会です。そんな完全なる銃素人の国で、スナイパーでも何でもない一市民が家で手作りした銃弾が標的だけを撃ち抜く。万にひとつの偶然だったのか、それとも狙い通りだったのかは分かりませんが、いずれにしてもこれほどの「執念」から身を護る術など、今の日本には存在しません。
何かが1センチ・1秒でもずれていたら、また違う惨劇になっていたかと思うと、安倍さんがたったひとりで市民や国民の盾になってくれたような気がして胸が締めつけられる想いです。いつぞや和服姿の私を見て「ずいぶん大きいね。トランプと同じくらいかな」と仰った安倍さん。いつかまたお会いした時には「あんなに大きくはない」旨をお伝えしたかった。ご冥福をお祈りいたします。
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
※週刊朝日 2022年7月29日号