死んじゃった倉田精二さんとかも写っていて、なつかしい
「あるとき、ふげん社の関根薫社長から『こういう写真で写真展をやりたいんです』みたいなメッセージをもらったんです。で、『一回見せてもらえませんか』と言われて」
どうやら関根社長はこのカメラで写した写真をインターネットのインスタグラムで見つけたようだった。
ふつう、そんな申し出があれば、うれしいと思うのだが、元田さんは戸惑ったという。
「写っているものが何、ということもないですし。『これ、すか』みたいな感じで。どうしようかな、と思ったんです」
元田さんの作品といえば、「革ジャン着た、いかつい兄ちゃんとかをばちっと撮った写真」が思い浮かぶ。
しかし、このカメラで撮ったのは、いわゆる「写真日記」。硬派なモノクロのストリートスナップとはまるで違う。カラーだし、画面の右下には撮影した日付が写し込まれている。
「写真って、撮って、現像して、プリントして、どんどん時間がズレていくじゃないですか。ただ、過ぎていくというか、過去になっていく感じ。なんか、そういうことが気になっていたんです。だから絶対に日付を入れて撮りたかったんですよ。海の写真を見ていると、小さいころの記憶とか、けっこう思い出したり。前世で見た風景みたいな。死んじゃった倉田(精二)さんとかも写っていて、なつかしいような、不思議な感じがするんです。だから、見ても見ても飽きない」
不思議なことに「関根社長も『写真と時間の関係』みたいなことを言ったんです。『ああ、この人はそういうことに本当に興味があるんだなあ』と思って、それで『やります』と、引き受けたんです」
ストリートで撮っている写真って、なんか仕事みたいやなと
今回展示する作品は「家族だったり、地元でいっしょに空手をやっている人、同じマンションの友人とか。これまでだったら絶対にカメラを向けなかった人たち」。
海や富士山、車の写真のほか、「子どもの誕生日、卒業式とか、記念日に写したのも多いですね」と、水を向けると、「何なんやろうなー」と、しみじみ語る。
「ふと気づくとね、ストリートで撮っている写真って、なんか仕事みたいやなと思って。強い絵柄を意識して、作品をつくるための写真みたいな。もちろん、撮りたいから撮っているんですけれど、こんな作品をこんな感じでプリントしたいな、とか思って撮っているんちゃうかな、と。作品にする、しないじゃなくて、自由になりたい。素直に『いいなあ』と思って家族を撮ったり、雨上がりに『あっ、虹、出てる。きれいやなあ』と思って撮れるのが写真のよさというか……。若いときはそんなことは考えなかったんですけどね」
猛暑のなかでのインタビューだったが、秋の気配が漂っているような気がした。
「このカメラを持つ前、地元にいてたらイライラして、『早く東京に行って写真を撮りたいな』とか、『いま、渋谷に行ったら撮れるのにな』とか思ってた。でも、これで撮るようになってからは地元でふらふらしていても何か撮れるんちゃう、と思って。ストレスもなくなって、すごく健康にいい」。そう言うと、「ふふっ」と目じりをゆるませた。