50ミリ標準レンズは開放F値の違いによって価格差があるが、往時は誰しもが必ず一度は使うレンズであり性能面ではいずれも安心だ。しかも廉価でF値に無理のないタイプのレンズのほうが数値性能は高いことも多く侮れないし、いずれのレンズも名玉になる資質がある。
レンジファインダーカメラ時代の50ミリ標準レンズはコンタックスがゾナータイプを、ライカがガウスタイプを選択している。それも一眼レフ時代を迎えると、至近距離撮影が可能になったためか、多くの50ミリ標準レンズはガウスタイプが基本になる。もちろん基本構成は同じでも、ゾナーとは描写の雰囲気が異なる。
一眼レフが本格的にデジタル化され高画素化が進むとレンズも次々と高性能化される。標準レンズもその例外に漏れず、構成枚数が増え、収差を完全に補正、抑え込む方向になる。レトロフォーカスタイプが多くなり、高性能化と同時に巨大化していく。
そして、ミラーレス時代を迎え、カメラはショートフランジバックに。再び撮像面にレンズの後玉が近づいた。ミラーの駆動距離を考慮する設計制約が取り払われ、レンズ設計者たちは思う存分腕をふるう。各社ともに光学性能の頂点を競う標準レンズが続々と登場、しかし従来にも増して、性能とトレードオフでレンズは構成枚数が増していく。特に35ミリ判フルサイズミラーレス用のレンズはいずれも巨大化し重量級だ。もちろん数値・性能面では十分に名玉と呼べるものばかりになる。
ただし、名玉とは、解像力やMTFの数値の高さだけで判断してはいけないと言える。そのレンズで自分が気に入った写真が撮れたかが重要だ。標準レンズは使用頻度が高く、気に入ったレンズは多く選ぶのは難しい。
ここでは、私が長く使用しているクラシックなものを選んだ。撮影した被写体や状況を思い出すレンズだ。(解説/赤城耕一)
※『アサヒカメラ』2020年1月号より抜粋。本誌では赤城氏が厳選した10本のレンズがその特徴と共に紹介されている。