「私のようなヨソ者は『仲間じゃない』って。もう、それを言われた後は、帰り道をずっと一人で泣きながら歩いていました」

 希望を持って村に来たのに、周囲は「都会の人」としか見てくれていない。それまでの奮闘が、孤独に変わっていった。

 そんな時、一人のおばあさんと出会った。居候をしていた家の近くで夫婦で炭焼きをしていた須藤カヲルさんだ。最初の出会いは今でも鮮明に覚えている。

須藤カヲルさん(撮影/高木あつ子)
須藤カヲルさん(撮影/高木あつ子)

「夫婦で小さなパワーショベルを使って作業をしてたんです。材料の木材や焼き終わった炭を運んでいるんですけど、危なっかしくて、それで、3人で作業すれば少しは楽になるんじゃないかなと思って手伝ってあげたんです。それが、カヲルさんとの出会いでした」

 カヲルさんは1927年生まれ。夫の須藤金次郎さんは知る人ぞ知る炭焼き職人で、2010年に黄綬褒章を受章している。地元のナラ(どんぐり)の木を使った「尾瀬木炭」は、火力が強いのに煙が少ない。山桜の炭を蒸留・精製して作った木酢液も万能薬として使われている。

 瀬戸山さんは、二人の仕事ぶりを見るに見かねて手伝ったわけだが、カヲルさんが「ありがとう」と言ってくれた。それ以来、炭焼きの作業を手伝うようになった。

「カヲルさんは村のおばあさんたちと3、4人ぐらいで味噌づくりもしていて、それも手伝うようになったんです。それで田舎暮らしに興味のある都会の若い人を集めてカヲルさんの味噌工場に押しかけて、味噌づくりを体験させてもらいました。そんな時はカヲルさんがわざわざ早起きして、私たちのためにおにぎりを作ってくれてるんですよ。でも、握力が弱ってるから、お米はボロボロで全然握れてない(笑)」

 ある日、瀬戸山さんは、カヲルさんたちに村の郷土料理の作り方を教わろうとレシピを聞いた。すると答えは、「そんなの『いーからかん』だよ」。「いーからかん」は、村の言葉で「適当」という意味。「なんだかアバウトな答えだな」と瀬戸山さんは思ったが、出てくる料理は素朴な材料でもおいしい。それがいつも不思議だった。

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ユーモアたっぷりのカヲルさんの人生相談