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入院中のカヲルさんに、人生の秘訣を聞いてみた。すると、手土産で持っていったらっきょうの皮を、素手で一枚一枚はがして食べながらこう話した。
「ボーッと生きていたらいい。頭が良くてはダメ」
そして、「早く村に帰りてえなぁ」とつぶやく。
瀬戸山さんは現在、炭焼きであまった材料を使ってアクセサリーを作って販売している。2012年に片品で無農薬農業を実践していた東京都出身の男性と結婚し、子どもも1人生まれた。村の人から借りた牛舎を自宅に改築し、屋号は「いーからかん」と名づけた。現在はコメのほかに大白大豆など40種類の野菜を育てている。

瀬戸山さんは、村の人たちからたくさんのことを学んだという。子どもが生まれる前は「このアニメはみせない」「これはやらせない」と考えていたことも、次第に「いーからかん」になっていった。それでも、村は高齢化が進み、仲の良かったおじいさんやおばあさんが亡くなったり、村から離れたりすることも増えた。「こんなにすごい人たちが村からいなくなるのかと思うと、本当に悲しい」という。
だからこそ、一時は「村に帰れないかもしれない」と思われたカヲルさんが、約3ヶ月のリハビリを経て9月に退院できたことは嬉しかった。自宅に着いたときは、瀬戸山さんの娘を含め、村の子どもたち3人がドレス姿でカヲルさんを迎えた。
そんなカヲルさんは、人生の最終ステージをどう考えているのだろうか。財産や銀行口座の整理など、死ぬまでにやるべき「終活」について人生相談を受けたカヲルさんの答えは、こうだった。
「終活ってなんだ?」
死後の手続きや身辺整理は、残った人の仕事。死んでいく人はそんなことを考えなくていいという。あと何年かはわからないが、生きる時間は有限である。カヲルさんと瀬戸山さんの「いーからかん」な関係は、残された日々も続く。(AERA dot.編集部/西岡千史)

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