ドキュメンタリー映画監督の海南(かな)友子さんが10歳の息子と年上の夫を連れ、昨年1月からニューヨークで留学生活を送っている。日本との違いに戸惑いながら、50歳になっても挑戦し続ける日々を海南さんが報告する。
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寒さ厳しきニューヨーク。一番困るのは、家のシャワーの温度調節ができないことだ。冷水かと思えば、やけどしそうな熱湯が出る。湯船がないため冷まして使うこともできない。極寒のシャワーブースで、裸でぬれた髪のまま、私は毎日、絶望する。
自宅をあきらめスポーツクラブでシャワーを使うことにしたが、シャワーは壁に固定式で、急に冷水が出るのは同じだった。古い建物が多いので、暖房や水道の不具合は日常茶飯事だ。困った私は、自宅のシャワーブースに簡易な湯船を置けないかと考え、アマゾンで深めの子ども用プールを発見。セールで12ドル(約1600円)! ウキウキして購入した。
しかし、いくら待っても届かない。まず、うちのマンションには荷物を預かるドアマンがいない。宅配ボックスもないので、不在時はマンション1階の内玄関の汚い床に無造作に放置される。取られそうで怖いが、米国人の感覚では別にいいのだそうだ。
放置された箱を毎日調べるが、プールは来ない。しびれを切らして販売元にメールすると、配達済みだと言われた。「盗まれた!」と憤っていたら、郵便受けの底にくしゃくしゃの不在票を見つけた。「これだ、私の湯船!」と再配達を依頼。でも、いくら待っても来ない。日本と違い「荷物が届かないことはある」と友だちに言われ、湯船の夢はかなわないままだ。
ニューヨークは、一言で言えばなんでも「雑」だ。玄関での荷物放置もそうだし、公共のマナーもひどい。最悪なのはゴミだ。リサイクルしてはいるが、米国人いわく「誰も真剣にやっていない」そうだ。野球場では試合後の座席に大量の残飯やゴミがそのまま置かれていたし、SDGsの総本山である国連のそばもゴミだらけ。店内での飲食や学校給食でも使い捨て容器を使う習慣が定着していてしまっている。米国の飲食産業の使い捨て文化の悪辣(あくらつ)さにへきえきしている。