作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。
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試行錯誤の末、自力で答えにたどり着くのは尊い。一方で、プロを頼ると、より芯を食った答えに出合える。久しぶりに「餅は餅屋」を痛感する出来事がありました。以前からお慕い申し上げております美容家の瀬戸麻実さんから、メイクのプライベートレッスンを受けたのです。
メイク。1980年代の終わりから90年代の頭に女子高生だった私の場合、それは失敗からのスタートでした。
雑誌のメイク特集を熟読し、鏡の前で見様見真似で眉を引く。肌の色と合わないファンデーションを塗って真っ白になったり、色の濃すぎる口紅を塗って親に笑われたり。プチプラコスメが豊富にあったわけでもなく、YouTubeのチュートリアル動画もなかった時代です。デパートの美容部員さんに習うなんて、高校生には無理難題でしたし。
そこから、まさに試行錯誤の30年。何度やっても、正解にたどり着いた確信はありません。年齢とともに顔も流行(はや)りも変わりますし、ベストと思えないまま化粧を続けていくのも苦痛です。
敬愛するマミ様にご指導いただき気づいたのは、必要なのはテクニックよりも観察力ということ。分析センスあってのテクニックとも言えます。
いったいいままでなにを見ていたのだと思うほど、メイクに関する私の理解は浅く、間違っていました。観察力が備わっていなかったとしか言えません。見てはいるけれど、見えてはいなかった。プロにメイクしてもらったことは何度もあれど、自力でそれが叶わないのは技量の問題だけでなく、見る場所を間違っていたからなのだとわかりました。
半ば自惚(うぬぼ)れかもしれませんが、文章における観察力と分析センスは、私に多少備わっています。指導された経験がないのはメイクと同じなのに、不思議。誰にでも得手不得手ってあるものですね。