本書は、常人には持ちえない特異な創造性の持ち主を「天才」と位置づけた上で、その能力の発露と精神病理との関連を病跡学的な観点から検証したものだ。
モーツァルトやアインシュタインをはじめとする著名人たちを例に、病理こそが独創性に結びついた可能性を探っている。うつ病の夏目漱石なども取り上げているものの、焦点はタイトルどおり発達障害。シャーロック・ホームズにASD(自閉症スペクトラム障害)の傾向が見られる一方、作者であるコナン・ドイル自身もそうであった点などは興味深い。
また、従来統合失調症とされていた天才数学者ナッシュなどが、実はASDだった可能性を示唆しているくだりは読み応えがある。発達障害が認知される以前に下された診断には、一定の留保が必要なのだ。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2019年6月7日号