道理が通らぬ世の中に辟易しておられたのだろう、1月29日に亡くなった橋本治さんは近年、社会時評的な仕事も多かった。『思いつきで世界は進む』はPR誌「ちくま」連載の巻頭随筆をまとめた本。2014年7月号~18年8月号分が収録されている。
「アナと雪の女王」の主題歌には皮肉たっぷりに<なんでツケマツ毛とかマツ毛エクステをしたまんま、“ありのままの自分”を称えるような歌を歌えるんだろうか>。ボブ・ディランのノーベル文学賞騒ぎを横目で見ながら<「文学とはなにか?」という論争が起こってしまう段階で、「文学」はもう終わってるんだよね>。
橋本式とでも呼ぶしかない橋本治の言説は、常に低い視点から遠いところを見たものだった。
政治についても同様で、森友・加計問題のようなスキャンダルが起きても政権が倒れないのは「野党がだらしないからだ」という声には<そうでしょうかね? 私は、騒ぎ声が小さすぎるからだろうと思いますね>。野党が弱いのは<それを支援しようとする国民の声が小さいからで、そうなったらもう煽り立てるしかない>のに、昨今の「おやじ系週刊誌」ときたら<「社会へ対する関心」というのが、まったくないのだ(!)>。
二大政党制についても<本当に必要だったのは、「よりよい自民党」であるはずの「もう一つの自民党」>だったのに、<「政権与党になる」と言った旧民主党の弱さは、「もう一つの自民党になる覚悟」が持てなかったこと>だ。じゃあ、その外の野党はどうするかといえば<「批判勢力」として存在すればいい>。社会党の失敗は政権与党を目指して現実路線をとったこと。<批評が「現実」なんかになる必要はないんだ>
すべての言葉の向こうに見える<それでいいのかよォ!><方向が違うだろうが>という思い。でも橋本治は安易に吠えず<とりあえず「簡単に分かる」というイージーな手は捨てるべきだ>というのである。「ジジイの小言」になりそうでならない不思議。ひとつの指針を失った気がする。
※週刊朝日 2019年3月15日号