新年を迎え、新しい手帳を使いはじめた人も多いはず。スケジュールはスマホで管理、の時代になってもやっぱり買ってしまう紙の手帳。舘神龍彦『手帳と日本人』は私どもが手帳にこだわる背景を探ったユニークな一冊だ。

 暦と予定記入欄を備えた世界初の手帳が誕生したのは1812年のイギリス。産業革命で労働者の働き方が変わったのがキッカケだった。これを日本にもたらしたのは福沢諭吉で、1879年には日本初の手帳「懐中日記」が大蔵省印刷局から発行された。

 この懐中日記と旧日本軍の「軍隊手牒」が今日の手帳のルーツだと著者はいう。軍隊手牒には予定記入欄がなく、冒頭には「軍人勅諭」が載っていた。手帳に規則や行動規範を載せる風習は、企業が従業員に支給する戦後の「年玉手帳」にも受け継がれた。つまり日本の手帳は単なる日程表ではなく、<共同体の時間感覚と帰属感覚を象徴する存在なのである>と。

 小型のノートを常時携帯し、時間ばかりか、意識も縛られてきた日本人! まあ、ありそうな話である。中学高校の生徒手帳にも必ず校則が載ってたものね。

 平成の不況による経費削減と終身雇用制の崩壊で、企業単位の年玉手帳は衰退したが、それでも著名人の名を冠した自己啓発型の手帳が出たり、自分でアレンジする大型のシステム手帳が流行ったり、手帳の進化は止まらない。

<これほど市場が成熟した国は、おそらく世界を見渡してみても日本だけ>というだけあり、多様化の時代に入った現在は、趣味や職種に特化した手帳が花盛り。「鉄道手帳」「つり手帳」「朝活手帳」「京都手帖」、はては「機動戦士ガンダム」に依拠した「シャア専用手帳」。これも一種の帰属意識か。手帳を見れば、その人の趣味がわかるかもしれない。それで思い出した。今年はまだ買ってなかったな「戦国手帳」。

 いずれにしても<日本人は手帳にスケジュール管理以上の何かを求めている>のは確かなようだ。まさに<日本はまごうことなき「手帳大国」なのである>。

週刊朝日  2019年1月25日号