●次第にシナジーへの不満を募らせていった日産
従って、ルノーの出資比率を100%に引き上げて統合する方向か、日産も上場を続けるのであれば、ルノーの出資比率を引き下げるなどの合理的な判断が必要と見られてきた。その議論を進めるチェック機能がガバナンス構造に必要だと言われ続けてきたのである。
フランス側の資本の論理で動くならば、ルノーの出資比率を100%にする判断がゴーン氏に求められる。しかし、ゴーン氏は長期にわたってこういった正当な要求に首を縦に振らなかった。ゴーン氏は見直しを求めるルノーの株主にも、曖昧なガバナンス構造に批判を強める日産側の株主にも抵抗を続けた。
資本面では親子関係にあっても、アライアンスの精神では対等な関係を持続させることが大きなシナジーを生み出し、連合の競争力を高めるというのが、常に彼のロジックにあった。しかし、結果としてゴーン氏の絶対権力が長期にわたって続き、その中で公私混同などの腐敗の構造が生まれる温床となったことは否めない。
シナジーとは、連合を組むことで必要な開発費や管理費を分担し、コストが下がったことで生み出せる売り上げ増大などの効果の合算だ。シナジーは2009年に15億ユーロから2017年には57億ユーロまで飛躍的に増大する。ところが、シナジーの負担と成果の分配を巡って、日産の社員は公平性に長く不満を感じてきた。
それを抑えてきたのがゴーン氏への権力の集中だ。ゴーン氏の個人的な権力に依存しなければならないような、問題のあるガバナンス構造が長期に継続された動機は、前半にはシナジー創造であったが、年月を重ねるにつれて、いつしかゴーン氏の独占的な権力の維持に変わっていったと感じている。
最後が2014年から現在に至る「対立と分断リスク」の第3段階である。この発端は、国内の産業を守る目的として、フランス政府が2014年にフロランジュ法を制定したことだ。株式を2年以上持つ株主に、2倍の議決権を与えることで、政府保有の株式の議決権が国内雇用に影響を及ぼす案件に対し拒否権を発動するなど発言力を増す。ゴーンは適用除外を巡り、当時の経済・産業・デジタル大臣であったマクロン大統領と激しい確執を演じたことは有名だ。
対等の精神でアライアンスを進める日産にとっては、これまでのアイデンティティを否定されかねない事態となった。フランス政府のルノーへの介入が、日産の主権や独立を脅かし、不利益を生み出しかねないためだ。ゴーン氏は日産の会長兼CEOとして、日産の立場を全面的に防衛した。