絵本作家の安野光雅さんが、故郷の島根県津和野町を描き、綴った46の話からなるエッセイ。前半には、安野さんの好きだった懐かしい少年時代の風景が描かれている。紙芝居、機織り、警察署、呉服店……。巻末には、けん玉、メンコ、酒瓶、ちりめん生地のお手玉、SL……。但し巻末の絵は、挿絵の仕事をしていた亡き弟、宗男さんの作品だ。
随所に兄弟の話がある。雪が降ったある日、風呂を抜け出し、雪の上に転がり、寒くなると再び風呂に浸かった。田んぼの積み藁を引き抜き、チャンバラをした。「兄ちゃん、話をしてくれえ」。布団に入り、兄の作り話を熱心に聞いた幼い弟。
「弟というものは、兄の影響を受けやすいものらしい」と安野さんは言う。その言葉通り、兄を尊敬し慕った宗男さんの絵は、安野さんの絵にちょっと似ている。
※週刊朝日 2018年6月29日号